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STREET 1:1番外編~ベトめし天国


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 ハノイ 朝7時。

 何故、ハノイなのか。

 というよりも、何故、ハノイにいるのか。

 よくわからない。もちろん、用事などないし、誰かに行けと命じられたわけでもない。ネパールやタイのように友人、知人がいるわけでもなく、コネがあるわけでもない。数字上だけ有り余る有給休暇をほんの少しだけ使って、安い航空券を購入して自分の意志で再びやってきた。

 しかしまぁ、徘徊をライフワークとしているおれにとって、「用事」という二文字ほど怪しいものはない。

 とにかくベトエアの往復航空券は僅か五万円。これは安い。

 さて‐

 早朝のロンビエン駅界隈の徘徊を終え、目に留まったカフェで一服しながら、ベトエア機で乗り合わせた韓国人のことを思い出してひとり気味悪くニヤニヤしていた。

「一部」の韓国人旅行者のマナーの悪さは時々耳にするし、東南アジア人を徹底的に見下した、横柄極まりないその態度も何度か目にしたことも、そしておれ自身が韓国人に間違われ、憎悪剥き出しの形相で強く罵られた後に、地面に唾を吐かれたこともあった。しかしベトエア機のそれは、ゴミや使ったカップを放り投げて床に散乱させるという、火病っていたのかどうか、とにかくちょっと知能に問題があるのではないかというクレイジーぶりであった。もちろん、まともな旅行者もいるので、韓国人のすべてがなどと書くつもりは毛頭ないし、おれ自身、韓国人はまったく嫌いではないが、これを以って尚も「世界でもっとも優れた民族」などと両班顔で井の中の蛙丸出しなことを謳われても、「笑わせんなボケ」と思わざるを得ない。

 とにかく、成田から僅か五時間と少しであるというのに、飛行機での移動が堪えるようになってきた。若い頃は隣町に行くような感覚であったアジアが、年とともに遠くなる。もしかしたら機内の決して若くはなかった韓国人も飛行機嫌いで発狂寸前であったのかもしれない。

 さて、ベトナムはニコチン&カフェイン中毒のパラダイス。嫌煙家にはまさに地獄的な世界が心地好い。マルボロを燻らせながら、コンデンスミルクの入った甘いコーヒーを啜る。甘いといっても、コーヒー自体は後頭部がジンジンするほど濃いので、お子様向けというわけではない。まさに至福の時であるが、カフェの婆さんがコーヒーの飲み方がどうこうとベトナム語で指示して来るのがちょっとウザい。コーヒーぐらい好き勝手に飲ませてくれい。まず、表面の濃くて苦い部分を愉しみ、そして三分の一ぐらいになったら底部のコンデンスミルクと混ぜて激甘を愉しむという、執拗で変態的な性癖にも似た飲み方をしたいのである。

 カミさんはむくむくと起き出し、ホテルのレストランに向かっている頃であろう。前回宿泊した四ツ星ホテルが満室で、探しに探して漸く見つけた喫煙可能でベランダつきのホテルは、まぁ三ツ星ゆえ残念なところもあるが、かつては「星って何よ?」的な、南京虫の蠢くカトマンズの安宿に何百泊もしていた身ゆえ、あまりエラそうなことはいえない。カミさんいわく、このホテルの朝飯はプリンが食い放題で最高とのこと。ホテルでは決して朝飯を食わない主義のおれは、徘徊中に屋台などで済ませる。幸いにもここハノイは朝の六時過ぎには食堂から洋服屋まで営業を開始している。しかし朝の六時に服を買うやつなどいるのか。

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 朝飯はブンチャーかフォー、それらに飽きると福建雲呑面の店に行く。どれもがうまいが、特につけダレの中に浸っている、炭火で焼いた豚肉の香ばしさが鼻腔をくすぐるブンチャーがたまらない。これまでおれの中でのアジア最強の食いものはタイのソムタム、それもクセの強いソムタム・プーパラーであったが、どうやらその座はブンチャーに譲ることになりそうである。すまぬタイ人。でも、愛してるぜ、タイ。

 ホテルに戻ると、朝飯を済ませたカミさんは通りの向かいの洗剤屋の婆さんと談笑していた。

「ここ、洗剤が飛ぶように売れていくのよ。飲食店の経営者なのか、みんなバイクや車で来て大量に買っていくのよねぇ」。

 この婆さんが英語を話せるとは思えないし、当然カミさんもベトナム語が話せない。しかしまぁ、それでも相手に対する敬意さえあれば、なんとなく会話は成立するものである。一部の韓国人旅行者に足りないのは、この相手に対する敬意であろう。神の子気取りのクソファラン(白人)にへつらうばかりが能ではない。

 カミさんと一緒に、朝飯後の徘徊を開始。

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 今回はいつもの徘徊のバディであるシグマDP2xの代わりにフルサイズSLRを選んだが、一歩進むたびに肩に食い込むそれに強く後悔した。小型軽量かつ身の毛もよだつ描写、目測のしやすさ、呆れるほどのタフネスさなど、やはりシグマはおれにとって最強のスナップカメラである。それ以前に、ストリート・スナップは人知れず、空気を乱さずに行われるべきであり、巨大なSLRを振り回し、テロリストよろしくガチョンガチョンと派手なレリーズ音を響かせるのはあまりスマートな行為とは思えない。四半世紀前にキャノンがムキになって開発していた静音技術は一体どこに消えたのか。
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 昼飯はフレンチ・クォーター近くの路地にある屋台で済ませることが多い。ここはオフィス街にも近いせいか、昼時はビジネスマンや学生たちで、まるで年末のアメ横のような状態になるが、それがまた愉しい。カミさんお気に入りで、店主の女将とも顔馴染みの屋台のそれは、チャーハンに肉や漬物をドバッと載せたもので、正式な名前は不明である。三万ドンと激安で量もたっぷり、しかもうまい。ちなみにここの年の頃四十代半ばと思われる女将はかなりの美人である。いつか一人で行って、玉砕覚悟で口説いてみたい。

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 食後は再びカフェでコーヒータイム。日本では考えられないこの贅沢。ベトナム人は時間の使い方が巧い。あまり人に対しての気遣いが過ぎると終日忙しなく、息つく暇もなくせかせかと行動することになる。時には自分勝手にこういう時間を愉しむのもよいのではないか。写真のそれは、玉子とコンデンスミルクを泡立てた、その名もエッグコーヒーなるもので、うまいかどうかといわれれば、まったくうまくはない。もう死ぬまで飲むことはないであろう。やはりごく普通のコーヒーがうまい。

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 腹ごなしに徘徊を続ける。街を歩いていると、シクロやバイタク、靴磨きなどが次々と声をかけてくる。これらも一種の交流なので愉しいのであるが、さっぱりしたベトナム人の性格なのか、あまりにも消極的すぎてかえってこちらが心配になる。もっと強気で、断られてもしつこく食いつかないと商売にならんだろ。ネパールの靴磨き少年たちを見習ったほうがいい。

 ホテルに戻ってシャワーを浴びて昼寝を決め込めばもう夕方。

 夕飯の時間である。

 何を食おうかと、カメラを手に街を徘徊。

 たまに、若い子たちに日本語で声をかけられることがある。何でも大学で日本語を専攻しているらしい。タイの大学生もそうであるが、皆、とても礼儀正しくて感心する。ベトナムの若い子たちのピースには日本と違って重みがあるなどと考えてしまうのは、リアルベトナム戦争世代の悪い考えであろうか。CCRの「ジャングルを越えて」のメロディが一瞬だけ頭の中に流れた。もちろん、今のハノイの子たちはいうまでもなく21世紀の今を生きているわであるから、そういうガイジンの屈折した目で見てはいけないのは解っている。


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 ハノイの名物料理に、油で揚げた雷魚と野菜をブンに絡めて食う、チャーカーという、それが通りの名前にもなっているほど有名な料理がある。日本でいう、油そばであろうか。うまいことはうまいのであるが、一人前十七万ドンという強気過ぎる値段の割りに量は少なく、店員は四半世紀前の中国服務員以下という態度で、まぁ名物はあくまでも名物でしかないのであろうと思わずにはいられない。ブンチャーのほうがはるかに安くてうまい。 

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 おれが猛烈に気に入っているのが、旧市街のハンブオム通りにある銘店、ビッテット・オンロイ。ビッテットはベトナム風のステーキ。ここのそれは他店に比べ値段がかなり高いが、味は最高、カロリーのことは頭から消し去って注文するパテも絶品である。この店のすぐ近くにも、ビッテット・ハイティという人気店があり、ビッテットはもちろん、カエルや鳩のローストが食える。

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 まぁそんなわけであっという間に恐るべき体重になってしまったおれは現在、夜は炭水化物を摂取せず、尚且つカロリー及びプリン体オフのビールもどきを飲んでいる。

 ベトめし天国で、本当に天国に行く日も近いか。

 いや…地獄かな。


 

by rising_h | 2015-05-02 03:03 | 番外編 | Comments(0)